太陽の塔が放つ恐怖は、単なる偶然の産物ではありません。これこそが、作者である芸術家・岡本太郎が計算し尽くした制作意図の核心でした。
1970年大阪万博の全体テーマは「人類の進歩と調和」でした。日本が高度経済成長の絶頂期を迎え、建築家・丹下健三を中心とするエリート構造家たちが、透明で幾何学的な大屋根(お祭り広場)を建設し、科学技術と未来の繁栄を誇示しようとしていた時代です。テーマ館のプロデューサーに就任した岡本太郎は、その欺瞞と浅薄さに激しい怒りを覚えました。自著『今日の芸術』や当時の手記において、太郎は次のような強烈な思想を書き残しています。
「人類は本当に進歩しているのか。技術が発達すれば人間は幸福になるのか。進歩の美名のもとに、人間本来の原始的な生命力や生々しい魂が去勢されているのではないか」
丹下健三が設計した近未来的な大屋根のど真ん中に、あえて巨大な穴を開け、原始時代の土偶を思わせる禍々しい太陽の塔を突き刺す——それこそが、太郎が近代合理主義に叩きつけた最大の宣戦布告でした。調和を拒絶し、快適さに慣れきった近代人の急所を抉り出すために作られたのですから、私たちが塔を見て「不気味」「不穏」と感じるのは、まさに太郎の罠に完璧にはまっている証拠なのです。
この思想を具現化するために組み込まれたのが、時間を司る「4つの顔」です。
塔の頂部に君臨する「黄金の顔」は、直径約10.6メートルを誇り、燦然と輝く「未来」を象徴しています。しかしその表情には感情が一切なく、冷ややかな仮面のようです。胴体中央に配された「太陽の顔」は、直径約12メートルのコンクリート製で、白と黒の鋭利な線によって力強く描かれ、「現在」を表現しています。そして最も多くの人に恐怖を与えるのが、背面に黒色陶器タイルで焼き付けられた「黒い太陽」です。背中側を振り返った瞬間、青や赤のコロナを放ちながら睨みつけてくるこの顔は、怨念や死、過去の記憶を背負う「過去」を象徴しています。
さらに、万博当時に地下展示空間の中央に設置され、万博終了後に行方不明となっていた「第4の顔(地底の太陽)」が存在します。直径約3メートル、長さ約11メートルにも及ぶこの巨大な黄金の仮面は、人間の深層心理、祈り、太古の精神世界を象徴しており、2018年の内部再生事業によって復元展示されるに至りました。4つの顔が過去・現在・未来、そして人間の深層心理を立体的に包囲している構造こそが、鑑賞者を全方位から威圧する根本的な要因です。