インターネット上の掲示板やSNSでは「放っておけばそのうち治るのではないか」「乾燥させれば自然に菌が死滅するはず」といった根拠のない言説が散見されます。しかし、獣医学の観点から断言すれば、犬の耳マラセチア自然治癒の真相は「放置による重篤化」以外の何物でもありません。
犬の耳道は人間と異なり、入口から鼓膜に向かって垂直に下りたあと直角に折れ曲がる「L字型」の特殊な構造をしています。湿気や分泌物が奥底に溜まりやすい排泄トラップ構造になっており、一度菌が大量増殖して粘膜が腫れ上がると、自然に換気・自浄される環境は完全に失われます。放置すれば炎症は外耳から中耳、内耳へと波及し、激しい神経症状(斜頸や眼振)や、耳道が石のように硬化して塞がる「耳道石灰化」を引き起こし、最終的には全耳道切除術という大掛かりな外科手術を余儀なくされる危険性を孕んでいます。
では、なぜ動物病院で処方薬をもらっているにもかかわらず、犬の耳マラセチアが治らない理由として悩む飼い主が多いのでしょうか。現場取材から浮き彫りになったのは、次の3大要因です。
- 主観的な「治ったつもり」による早期治療中断:点耳薬を数日間投与し、赤みや異臭が引いたことで飼い主が完治したと自己判断し投薬を止めてしまうケース。表面上の炎症が治まっても、顕微鏡レベルでは菌の残党が潜んでおり、数日から数週間で再び爆発的に増殖します。
- 基礎疾患(アトピー・脂漏症・異物)の放置:外耳炎そのものは「結果」に過ぎず、根本にあるアレルギーやホルモン異常、あるいは耳道内のポリープや異物をコントロールできていなければ、いくら抗真菌薬で菌を叩いても何度でも再発を繰り返します。
- 間違ったホームケアによる物理的バリア破壊:「黒い耳垢を全部取ってあげたい」という親心から、綿棒で耳の奥をゴシゴシ擦る行為です。傷ついた上皮は防御反応として余計に皮脂を分泌し、菌を奥へ押し込む最悪の結果を招きます。