「自分の周りにはそんな人は一人もいない」と思われがちですが、統計データが示す現実は異なります。無性愛に関する学術研究の嚆矢とされる英国の社会学者アンソニー・ボガート(Anthony Bogaert)教授の大規模調査データによると、人口のおよそ1%が「他者に対して性的に惹かれたことがない」と回答しています。
日本国内の動向に目を向けると、自治体やシンクタンク、大学研究機関が実施する大規模なLGBTQ+意識調査において、アセクシャルやアロマンティックと自認する割合は概ね0.8%〜1.6%の間で推移しています。これは「100人に1人前後」という計算になり、左利きの割合や特定の血液型と同等、あるいは中学校・高校の1学年に数人は確実に存在する計算です。
2026年現在のトピックとして注目されるのは、「後天的な原因」に関する議論の整理です。「過去の失恋トラウマや性的被害が原因ではないか」「ホルモンバランスやうつ病などの影響ではないか」と問われるケースは後を絶ちません。医学的見地から言えば、うつ症状や抗うつ薬の副作用、性腺機能の低下による「リビドー(性欲)の減退」は一時的な身体反応であり、本質的な性的指向である無性愛とは区別されます。
一方で、過去の人間関係の経験を通じて「自分はもともと恋愛感情を必要としていなかったのだ」と後から自覚するケースは極めて一般的です。原因探しに固執するよりも、「今の自分が他者との距離感をどう心地よいと感じているか」という実感こそが、セクシュアリティを捉える真の指標となります。