なぜ世界の大半の国では、蛇口から出る水をそのまま飲むことができないのでしょうか。発展途上国のみならず、経済先進国であっても直飲を避けるべき背景には、4つの構造的要因が存在します。
1. 浄水場を出た後の「配管腐食」と「鉛汚染」
多くの国において、最大の弱点は「浄水場から各家庭までの地下配水管」にあります。アメリカのミシガン州フリントで発生した大規模鉛中毒事件のように、敷設から半世紀以上が経過した水道管から有害な鉛やサビが溶け出している都市は少なくありません。浄水場を出た時点では基準をクリアしていても、数キロの配管を通過する間に有害物質を含んでしまいます。
2. ビルやアパート屋上に設置された「貯水タンクの放置」
東南アジア諸国や南欧の観光都市で頻発するのが、建物の屋上にある受水槽・貯水タンクの衛生崩壊です。日本では水道法により年1回の定期清掃や点検が義務化されていますが、海外では法規制が機能していない例が目立ちます。猛暑のなか密閉を失ったタンク内で鳥の糞や害虫、藻類、細菌が繁殖し、蛇口まで毒素が運ばれるケースが後を絶ちません。
3. 水源における病原性微生物(原虫・寄生虫)の残存
熱帯地域やインフラの未成熟な地域では、取水源そのものに家畜の排泄物や生活排水が流れ込んでいます。なかでもクリプトスポリジウムや赤痢アメーバ、ジアルジア(ランブル鞭毛虫)といった病原性原虫は通常の塩素消毒に対して強い耐性を持っています。高度な膜ろ過やオゾン処理設備を持たない施設ではこれらを死滅させることができません。
4. 「塩素消毒」に対する文化的・環境的アプローチの違い
ヨーロッパ諸国では、水道水に残留する塩素のカルキ臭や副生成物(トリハロメタンなど)を忌避する思想が根強く存在します。ドイツやオーストリアのように、徹底した水源保護と膜ろ過で無塩素給水を実現している国がある一方、十分なインフラがないまま塩素投入量を低く抑えた結果、末端の蛇口で病原菌が増殖するリスクを抱えている国も見受けられます。