「シュヴァルツヴェルダーキルシュトルテ(Schwarzwälder Kirschtorte)」という重厚な響きを持つこの菓子の名は、直訳すると「シュヴァルツヴァルト(黒い森)地方のさくらんぼトルテ」を意味します。ドイツ南西部に広がる広大なシュヴァルツヴァルトは、鬱蒼と生い茂る針葉樹林が薄暗い影を落とすことからその名が付けられた、美しい自然と豊かな果実の宝庫です。
このケーキのビジュアルには、同地方の伝統文化が見事に投影されています。トッピングされた削りチョコレート(削りチョコ)は鬱蒼とした深い森の木々や土壌を、純白の生クリームは冬の雪景色を、そして赤く輝くチェリーはシュヴァルツヴァルトの女性たちが祝祭で被る伝統的な帽子「ボレンフート(Bollenhut)」の赤いポンポンを象徴しているという説が有力です。
ドイツ伝統菓子としての歴史は20世紀初頭に遡ります。1915年にボンのカフェでパティシエを務めていたヨーゼフ・ケラー(Josef Keller)が原型を考案したという説や、1930年にテュービンゲンのカフェ・ヴァルツの店主エルヴィン・ヒルデンブラント(Erwin Hildenbrand)が生み出したとする説など、発祥には諸説存在します。いずれにせよ、さくらんぼの産地として名高い同地方の恵みが、ドイツ菓子史に燦然と輝くスペシャリテを生み出す原動力となったことは間違いありません。