巨大事業の裏には、日本の教科書ではほとんど語られることのない数々の秘話が存在する。工事着手にあたり設立された嘉南大圳水利組合において、彼は技術上の指揮を執るだけでなく、働く人間に対する並々ならぬ配慮を見せた。
金融恐慌の煽りを受けて事業予算の縮小を余儀なくされた際、彼は解雇通知を出さなければならない状況に追い込まれた。その際、能力の高い優秀な作業員から順に解雇するという決断を下す。「優秀な者なら他でもすぐに仕事が見つかるが、そうでない者を切ればその家族が路頭に迷う」という理屈である。経営や効率を優先する感覚から見ても驚くべき人道主義であり、この姿勢こそが台湾人作業員たちからの絶大な信頼を勝ち得た理由だった。