空間に入ると、そこには90年代の住宅地を思わせる写真が引き伸ばされて掲げられている。しかし、空の色は不自然なほど青く、奥に広がる廊下には終わりがない。誰の記憶にも残っていないはずの風景。なのに、胸が締め付けられるような懐かしさが押し寄せる。
「子どもの頃に見た夢の端っこに立っているみたいです」。都内の大学に通う女性(21)は、壁に飾られた不気味なフォントの看板を眺めながら呟いた。「普段のSNSは『映え』や『完璧な生活』を強要してくるけれど、ここには誰もいない。評価されるプレッシャーから解放されるんです」。
この感覚こそが、表現の核心だ。実在しない過去への郷愁が、不安と安らぎという矛盾した感情を同時に呼び覚ます。