黒川雅之を語る上で、多くの人が関心を寄せるのが兄・黒川紀章との関係性です。中銀カプセルタワービルや国立新美術館などを手掛け、メディアでも華々しく活躍した兄・紀章に対し、雅之は一貫して対象との「手触り」や「個人の身体感覚」に軸足を置いたアプローチを貫きました。
兄が都市や社会構造の変容を捉えたマクロなスケールで建築を語ったのに対し、雅之は人間が直接触れるプロダクトや道具の内面性に深く分け入りました。一見すると対照的な活動領域に見えますが、二人の根底には共通して「建築を単なる箱ではなく生命や関係性の表現として捉える視点」が流れていました。
雅之自身、兄の圧倒的な突破力や構想力に敬意を払いながらも、自らは素材そのものの質感や日本特有の情緒空間を深掘りすることで、独自のポジションを確立していきました。血縁という枠組みを超え、互いに異なるベクトルで日本の空間デザインを世界水準へ引き上げた盟友関係でした。