名古屋港水族館のシャチ飼育史は、生命の誕生という歓喜と、幾度もの悲しい別れを乗り越えてきた歴史でもあります。
同館で最初に飼育されたのは、2003年に来館した雄の「クー」でした。クーは多くの来館者に親しまれましたが、2008年に感染症等の合併症により死亡。その後、2010年には野生保護個体である雌の「ナミ」が和歌山県太地町から搬入されたものの、わずか数ヶ月後の2011年1月に肺炎のため死亡するという試練に直面しました。
この苦難の歴史を転換させたのが、鴨川シーワールドとの共同学術研究プロジェクトです。2011年12月、国内屈指の繁殖実績を持つ雌のステラが、妊娠中の娘ランやビンゴ(雄)とともに名古屋港水族館へ移送されました。そして2012年11月13日、ステラが見事に出産した赤ちゃんシャチが現在のリンです。
国内の飼育シャチ家系図において、ステラはまさに「偉大なる母」です。長女ラビー、次女ララ、三女サラ(死亡)、四女ラン、五女リンを産み育て、アースはラビーの息子にあたるため、ステラから見れば「孫」という血縁関係になります。現在国内で生きるシャチたちのほとんどがステラの血を受け継いでおり、遺伝的多様性の維持と種保存のためのブリーディングローン(繁殖を目的とした貸借関係)が極めて重要な意味を持っています。