曲名を巡っては、当時から「なぜ日本の原風景を歌いながら、聞き慣れない外来語のタイトルなのか」という疑問が投げかけられてきました。この命名の背景には、谷村新司氏の深い知性と世界観が反映されています。「サライ」の直接的な語源は、ペルシャ語の「キャラバンサライ(caravanserai/karwansaray)」に由来します。
かつてシルクロードの過酷な砂漠を行き交う隊商(キャラバン)たちにとって、旅の途中に現れる「サライ(宿館・隊商宿)」は、水と食料を得て、傷ついた身体を休め、旅人同士が語り合う唯一無二のオアシスでした。厳しい自然界を生き抜く商人たちにとって、サライはまさに命を繋ぎとめる「安らぎの拠点」そのものだったのです。
谷村氏は「ふるさと」という直截的な言葉を使わず、あえて「サライ」という異国の言葉を冠しました。そこには、単に自分が生まれ育った物理的な土地を指すのではなく、「激しい人生の風雪に晒され、傷つき疲れたときに、誰もが心の奥底で立ち返ることのできる精神的なシェルター(帰還の地)」という意味が託されています。サクラ吹雪が舞う青い空の彼方に描かれた「サライ」とは、旅立ちと挫折を繰り返す人間が最後に還っていく、母の胎内のような精神的聖域だったと言えます。