土井氏が紹介するレシピの中でも、特に絶大な支持を集めているのが「黒豆」と「お雑煮」である。従来の黒豆作りといえば、鉄釘を入れたり、重曹の量に神経を使ったりと、初心者にはハードルが高い印象が強かった。しかし、土井流の黒豆は極めて合理的でシンプルだ。
調味料を合わせた煮汁に豆を浸し、じっくりと火を通す。無理なツヤ出しや過剰な甘さを追わず、豆本来の風味を活かすその仕上がりは、「もっと早くこの作り方に出会いたかった」と多くのレシピ読者を唸らせてきた。また、地域の出汁や餅を引き立てる素朴なお雑煮も、正月の朝の身体に染み渡る。手間を省くのではなく、無駄を削ぎ落とした先にある本物の味覚がそこにはある。