直腸潰瘍の治療方針は、活動性の出血があるかどうかの「緊急度」と、基礎にある「原因の除去」という2段階で進められます。一度潰瘍ができてしまった粘膜を健常な状態に戻すためには、段階的な医学的アプローチが欠かせません。
急性期の止血処置と入院期間の目安
活動性の出血が見られる場合、最優先されるのは内視鏡を用いた止血術です。内視鏡の先端から特殊な止血器具を挿入し、露出した血管を金属製のクリップで挟み込む「内視鏡的クリップ止血術」や、高周波電流で血管を熱凝固させる「アルゴンプラズマ凝固法(APC)」が行われます。
急性出血性直腸潰瘍で止血処置を行った場合の平均的な入院期間はおよそ7〜14日間です。止血直後の数日間は絶食管理および点滴による補液が行われ、再出血のリスクがないことを確認しながら流動食から徐々に食事を再開します。全身状態が安定している軽症の孤立性直腸潰瘍症候群であれば、入院を必要とせず外来通院での薬物治療と排便指導のみで治療を進めるケースも珍しくありません。
薬物治療と病態に応じたアプローチ
急性期の危機を脱した後は、潰瘍の修復を促すための保存的加療に移行します。
- 外用薬(坐薬・注腸製剤):直腸局所の強い炎症を鎮静化させるため、ステロイド坐薬やメサラジン(5-ASA)製剤の注腸、スクラルファート(粘膜保護薬)の局所投与が行われます。直接病変部に薬効成分を到達させられるため、高い修復効果が期待できます。
- 浸透圧性下剤の適切な活用:便秘の解消は必須ですが、大腸を無理に刺激する刺激性下剤(センナやダイオウなど)の乱用は直腸への負荷を強めます。酸化マグネシウムやポリエチレングリコール製剤など、便に水分を含ませて柔らかくする浸透圧性下剤を用いて、いきまなくても自然に滑り落ちる便の硬さを維持します。
食事療法の注意点と再発防止のルール
直腸粘膜が修復される過程では、日々の食事内容に細心の配慮が必要です。「食物繊維をとれば便秘が治る」という単純な思い込みは、直腸潰瘍においては危険な落とし穴となります。
急性期から回復期にかけては、不溶性食物繊維(ごぼう、きのこ、豆類など)の過剰摂取を控えるべきです。不溶性食物繊維は便のカサを増やし、患部である直腸潰瘍面を物理的に強くこすりつけて再出血を引き起こす恐れがあります。食事では、水分を抱え込んで便を滑らかにする水溶性食物繊維(海藻類、熟した果物、オクラなど)を適度に取り入れ、消化の良いおかゆや白身魚、豆腐などを中心とした低残渣食を心がけます。十分な水分補給(1日1.5リットル程度を目安)も不可欠です。