事件の発端は2008年3月、当時大学生だった男性のパソコンがファイル共有ソフトを介してウイルスに感染したことでした。端末内に保存されていたハードディスク内のデータが暗号化されることなくネットワーク上に放流され、その中に交際相手との極めて親密なプライベート写真が大量に含まれていたのです。ネットユーザーによって名付けられた蔑称「ケツ毛バーガー」は、流出した過激な無修正画像の構図に由来しており、瞬く間に大手匿名掲示板「2ちゃんねる」(現・5ちゃんねる)のニュース速報VIP板やダウンロード板を席巻しました。
掲示板のユーザーらは単に画像を消費するにとどまらず、画像データに付随していた履歴書、学生証、サークル名簿、メールの送受信履歴などの膨大な私的文書から当事者を特定する作業を急速に推し進めました。結果として、男性の身元だけでなく、全く非のない交際相手の女性の実名、通学先、アルバイト先の飲食店、さらには親族の勤務先に至るまでが白日の下に晒される事態に陥ったのです。
被害者の通う大学や勤務先には抗議や嫌がらせの電話が殺到し、無関係な注文が送りつけられるなど、ネット上の悪意は瞬時に現実社会を侵食しました。ネット黎明期からブログやSNSが普及し始めた転換期において、個人の私生活が一夜にして世界中に曝露され、尊厳が無残に踏みにじられたこの惨劇は、のちに情報セキュリティの重大な警鐘として語り継がれることになります。