『1リットルの涙』という同一の原作手記を持ちながら、2004年に公開された劇場映画版(監督:岡村力、主演:大西麻恵)と、2005年10月期に放送されたフジテレビ系連続ドラマ版(主演:沢尻エリカ)は、演出方針と作品構造において根本的に異なるアプローチをとっています。
最大の相違点は、ドラマ版で物語の感情的な支柱となった「麻生遥斗(演:錦戸亮)」というキャラクターの有無です。麻生遥斗は、難病に侵されていく主人公・池内亜也(ドラマ版の役名)を不器用ながら支え続け、やがて自らも医師を志すようになる青年ですが、遥斗は原作の手記には一切登場しない完全なドラマオリジナルキャラクターです。制作陣が「テレビドラマとしての連続的な人間関係と視聴者の感情移入」を促進するために配置した劇的装置でした。
これに対し、2004年公開の映画版は、著者である木藤亜也(映画での役名は本名と同じ木藤亜也)が遺した日記、および母・木藤潮香による手記の手触りをそのままスクリーンに定着させるリアリズムとドキュメンタリー的誠実さを最優先しています。過度な恋愛描写やドラマチックな演出を排し、病の進行とともに奪われていく日常の機能と、それに抗いながらペンを握り続けた亜也の生の軌跡を静謐に描き出しました。
映画版のあらすじは、名古屋市に住む活発な中学3年生の木藤亜也が、足元がおぼつかなくなり転倒を繰り返すところから始まります。診断の結果告げられた病名は、運動機能を司る中枢神経が徐々に破壊されていく「脊髄小脳変性症」。高校進学を果たしたものの、急速に進む身体の不自由さに直面し、同級生からの心ない言葉や好奇の目に晒されながらも、母・潮香とともに障害者手帳の取得や養護学校への転校という苦渋の決断を下します。やがて手足の自由を失い、発声すら困難になっていくなかで、亜也が命の証としてノートに書き殴った魂の言葉の数々が、観る者の胸に迫ります。