一松を象徴する、喉の奥を鳴らすようなボソボソとした低音ボイス。この独特のアプローチはいかにして誕生したのか。当時の特番インタビューや関係者の証言を辿ると、そこには徹底した役作りの葛藤と現場での実験がありました。
制作初期のオーディション段階において、福山潤は一松だけでなく他の兄弟役の候補としても声のテストを行っていました。最終的に一松役に決定した際、音響監督や演出陣から求められたのは「とにかく覇気のない、社会の底辺にうずくまっているような声」というオーダーでした。
当時、福山潤が公のインタビューで語った生の証言によると、次のような試行錯誤があったと明かされています。
「普段の自分の地声のポジションだと、どうしても言葉に意志やエネルギーが乗ってしまう。一松は自分を『ゴミ』と卑下する人間だから、声を張るのではなく、息を吸い込みながら喉を狭めて吐き出すような発声を意識した。最初の数話はアフレコが終わるたびに喉がカサカサになり、ものすごい疲労感だった」
六つ子は全員が同じ顔をしているため、アニメーション表現において「声の周波数」を意図的に分散させる必要がありました。長男のおそ松が真ん中の標準トーン、カラ松が朗々とした響き、チョロ松が高音のスピード感、十四松が突き抜けたハイトーン、トド松が甘い中高音を担当する中、一松はアンサンブルの最も低いベース音を担わされたのです。福山潤の卓越した音響的バランス感覚があったからこそ、あの唯一無二の「暗黒ボイス」が成立しました。