経済的な実態に目を向けると、プロの世界は完全なる実力主義と二極化の構図が鮮明です。国税庁の統計資料や業界関係者への取材データを総合すると、国内における彫り師の平均年収は約300万円から500万円が中央値と推計されます。しかし、この数値を額面通りに受け取るのは早計です。
デビューしたての若手彫師の場合、顧客数が安定しないため年収100万〜200万円台に甘んじることも珍しくありません。スタジオ所属の場合、売上の40%〜60%をスタジオ側にブースレンタル料やマネジメント料として納める「歩合契約(バック制)」が主流であり、時間単価が1万円〜1万5,000円であっても、施術時間が月に30時間程度であれば手取り月収は15万円前後に留まります。さらにインク、カートリッジニードル、滅菌消耗品、グローブなどの資材費用は自己負担となるケースが多く、手元に残る純利益はさらに圧縮されます。
一方で、世界的な知名度を獲得したトップクラスの彫師や、人気プライベートスタジオのオーナーであれば、年収1,000万〜2,000万円超を稼ぎ出すプレイヤーも確実に存在します。近年では、海外のタトゥーコンベンションへの参加や、欧米・アジアの有名スタジオへ「ゲストアーティスト」として招聘され、ドル建てやユーロ建てで高単価の報酬を得るルートを開拓するアーティストも目立ちます。現代において世界的なタトゥーアーティストになるには、絵画的センスや技術力だけでなく、多言語での発信力、SNSを用いたセルフブランディング、徹底した衛生プロトコルを提示できる国際感覚が不可欠となっています。
スタジオ勤務を目指す際、一般的な求人サイトにタトゥースタジオの採用求人が掲載されるケースは極めて稀です。多くのスタジオは欠員が出た際、自前のSNSでポートフォリオ(作品集)の提出を求める形式をとるか、師匠や同業者からの紹介によって採用を決定します。採用の選考基準では、デッサンの完成度はもちろんのこと、連絡のレスポンスの早さ、約束時間の厳守、薬物や反社会的勢力との関わりがない健全性といった社会人としての資質が厳密に査定されます。