「乳糖不耐症でもヨーグルトならお腹を壊さない」という説は、単なる都市伝説や個人の思い込みではありません。厚生労働省の栄養指針や消化器病学会の報告においても、発酵乳が持つ生化学的な特性として明確に裏付けられています。牛乳を飲んだときに生じる乳糖不耐症のお腹がゴロゴロする原因は、小腸粘膜に存在する乳糖分解酵素ラクターゼが不足し、未消化の乳糖(ラクトース)が大腸へ流れ込むことにあります。大腸に届いた高濃度の乳糖は浸透圧を急激に引き上げ、腸壁から水分を引き込んで水様便を引き起こすとともに、腸内細菌による急激な発酵で大量の水素ガスやメタンガスを発生させます。
では、なぜヨーグルトではこの悲劇が起きにくいのでしょうか。そこには「発酵の力」と「物理的形状」という2つの明確なメカニズムが存在します。
第1の理由は、製造段階における乳酸菌による乳糖の分解です。ヨーグルトを固まらせる過程で、乳酸菌(ブルガリア菌やサーモフィルス菌など)は原料乳に含まれる乳糖をエサとして取り込み、乳酸へと変化させます。この段階で、もともと含まれていた乳糖の約20%から30%がすでに分解・消失しています。さらに決定的なのは、生きた乳酸菌が持つ「β-ガラクトシダーゼ」という乳糖分解酵素の存在です。ヨーグルトを摂取して胃酸を通過した乳酸菌は、小腸内で菌体が崩壊する際に自前の分解酵素を放出し、人間のラクターゼ不足をその場で物理的にアシストします。つまり、ヨーグルトは「消化酵素を自前で抱えた自己完結型の乳製品」なのです。
第2の理由は、乳糖不耐症における牛乳との違い、すなわち胃からの排出速度(胃内容排出時間)の差にあります。液体の牛乳はゴクゴクと一気に飲めるため、胃を瞬く間に通過して小腸へ怒涛のように流れ込みます。処理能力が低下しているラクターゼは一瞬でキャパシティオーバーに陥り、消化不良を直撃させます。対して、カゼイン(乳タンパク質)が酸によって凝固した半固体のヨーグルトは、胃の中に長時間とどまり、ドロドロの粥状になってから少しずつ小腸へ送り出されます。乳糖が微量ずつ小出しに運ばれるため、わずかに残った自身のラクターゼでも無理なく処理が追いつくのです。
ただし、それでも「ヨーグルトで下痢をした」という声がゼロではありません。乳糖不耐症でヨーグルトにより下痢が起きる理由を調べると、冷蔵庫から出した直後の冷気による腸管の過剰収縮(冷え)、一度に300g以上をドカ食いしたことによる乳糖総量のオーバーフロー、あるいは人工甘味料(糖アルコール)への刺激反応が混ざり合っているケースが目立ちます。また、極めて稀ですが乳糖不耐ではなく「牛乳アレルギー(カゼインアレルギー)」を発症している場合、発酵乳であってもアレルギー反応による激しい消化器症状を招くため、自身の症状を見極める慎重さが求められます。