しのぶが命を落とす直前、遺した言動には幾重もの感情が交錯していました。息絶える寸前、駆けつけたカナヲに向かって放ったのは、言葉ではなく「手刀による指文字の合図」でした。
これは事前にカナヲと共有していた「童磨の血鬼術である冷気を直接吸い込んではならない」という警告であり、「作戦通り自分が吸収されるまで待て」という冷徹な指示でした。自らの命が奪われる極限状態にあってもなお、しのぶの頭脳は戦況を冷静に支配し続けていたのです。
そして、童磨に抱きしめられながら内側から骨を砕かれる瞬間、童磨が吐いた「君の命は無駄じゃない、俺の中で永遠に生き続ける」という歪んだ救済の言葉に対し、しのぶは心の中で、そして最期に絞り出すようにこう告げます。
「地獄に堕ちろ」
姉・カナエを殺害され、数多の無辜の女性を喰らい尽くしてきた殺人鬼に対する、偽りのない純粋な憎悪の叫びでした。常に笑顔を貼り付け、怒りを押し殺して生きてきたしのぶが、人生の最後の最後に剥き出しにした本心でもあります。
その後、カナヲと合流した嘴平伊之助は、実母・琴葉(ことは)の命を奪った仇が童磨であった事実を知ります。しのぶを慕っていた伊之助と、しのぶの意志を完璧に継承したカナヲ。しのぶの毒によって顔面からドロドロに崩壊を始めた童磨の首を、二人の刃が交差して刎ね飛ばした瞬間、姉妹と母子の復讐劇は見事な結着を迎えました。
死後の世界(あの世の境界)で首だけになった童磨と再会したしのぶは、童磨から「ねえしのぶちゃん、俺と一緒に地獄へ行かない?」と求愛されます。その際のしのぶの返答は、一切の情けを容赦なく切り捨てるものでした。
「とっととくたばれ 糞野郎」
満面の冷ややかな笑みとともに放たれたこの一言は、読者にとって最大のカタルシスとなり、胡蝶しのぶという女性の気高く誇り高い魂の完全勝利を象徴しています。