延縄漁の全体像を把握する上で、多くの人が息をのむのがその規格外のスケール感です。遠洋マグロ延縄漁船が公海上で展開する幹縄の総延長は、実に100kmから150kmに達します。これは直線距離に換算すると、東京駅から静岡駅までの距離に匹敵する長大さです。
この広大な仕掛けは、緻密に計算されたパーツ群で構成されています。
洋上に浮かぶ「幹縄」には、およそ数十メートルごとに「浮標(ブイ)」が結びつけられ、仕掛け全体が海底へ沈みきらないよう浮力を保持します。さらに幹縄から垂下されるのが「枝縄」です。枝縄の長さは通常20〜40メートルほどあり、その先端に大型の釣り針と、冷凍サンマ、イカ、アジなどの餌が装着されます。1回の操業で海中に投入される針の数は2,500本から3,000本にのぼります。
操業プロセスは大きく3つのフェーズに分かれます。
- 投縄(とうな):深夜から未明にかけ、船を10〜12ノットで航行させながら、コンピューター制御された投縄機を用いて数千本の針と餌をテンポよく海中へ投入。この作業だけで約4〜5時間を要します。
- 浸漬(しんせき):仕掛けを潮流に乗せて海中を漂わせ、マグロやカジキが餌に食いつくのを待つ時間。通常は3〜4時間ほど潮になじませます。
- 揚縄(あげなわ):ラジオブイからの電波を頼りに仕掛けの端を発見し、ウインチ(ラインホーラー)で縄を巻き上げながら魚を甲板へと回収。途切れることのない重労働が10〜12時間以上続きます。
仕掛けを設置する深度によって、延縄は大きく2種類に分類されます。マグロやメカジキなどの中層・表層回遊魚を狙って海面下50〜250メートルを漂わせる「浮延縄(うきはえなわ)」と、海底にオモリを沈めてヒラメ、マダラ、キンメダイ、フグなどを狙う「底延縄(そこはえなわ)」です。狙う魚種の生態にミリ単位で針の沈降速度を合わせる職人技が、日々の操業を支えています。