うつ病を患った人の周囲が最初に違和感を覚えるポイントとして、圧倒的に多いのが「目」の変化です。医学的に分析すると、うつ病における目つきの特徴には極めて明確な神経科学的根拠が存在します。脳内のセロトニンやノルアドレナリン、ドーパミンといった神経伝達物質が枯渇すると、情報処理スピードや注意力を制御する前頭葉の機能が著しく低下します。これにより、視線を特定の対象へ滑らかに移動・固定させる「サッカード眼球運動」の制御が鈍り、結果としてうつ病で目の焦点が合わない理由が生み出されます。
臨床現場の医師が着目する兆候のひとつに、瞬目(まばたき)のリズム異常があります。健康な成人の瞬目回数は1分間に平均15回から20回程度ですが、精神運動制止(大脳の活動停滞により思考や身体動作が極端に鈍くなる状態)に陥ると、瞬目が極端に減少し、まるで虚空を一点凝視しているかのような無防備な眼差しになります。逆に、強い不安や焦燥感が併発している病態では、瞳孔が開いたまま落ち着きなく視線が泳ぎ続ける現象も確認されます。
さらに病状が進行すると、喜怒哀楽を表現するための顔面神経核への刺激伝達が阻害され、表情筋全体のトーヌス(筋緊張)が弛緩または硬直します。これが精神医学で古くから知られる仮面様顔貌とうつ病の結びつきです。本人は普段通りに対応しているつもりでも、他者からは「感情の起伏が完全に消滅した能面」のように映り、コミュニケーションにおいて決定的な違和感を生じさせる要因となっています。