肝臓病を取り巻く医療環境において、最大のトピックとなっているのが「脂肪肝」に対する薬物療法の急速な進展です。かつて「お酒を飲まない人の脂肪肝」は経過観察にとどまることが一般的でしたが、近年では国際的な疾患概念の刷新が進み、代謝異常に関連する脂肪性肝疾患は「MASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)」、炎症や線維化を伴って肝硬変へと進む重篤なタイプは「MASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)」と再定義されました。
臨床現場における最も劇的な変化は、肥満症や2型糖尿病の治療薬として登場した「GLP-1受容体作動薬(セマグルチド)」や「GIP/GLP-1受容体作動薬(チルゼパチド)」が、肝臓の脂肪蓄積と線維化に対して極めて強力な改善データを示し始めた点にあります。体重の10%前後の減量を達成することで、ALT数値の劇的な正常化と肝組織の脂肪沈着消失が報告され、消化器内科の学会でも激震が走っています。
さらに海外では、甲状腺ホルモン受容体β選択的作動薬(レスメティロム)をはじめとするMASH治療薬が承認を受け、日本国内でも新薬開発に向けた治験が加速しています。長らく「脂肪肝を治す特効薬はない、食事と運動だけで数値を落とせ」と言われてきた時代から、標的分子を狙い撃ちにして肝臓の線維化を直接食い止める時代へと、治療の常識は不可逆的な変革を迎えています。