実際に山や自然と向き合っている現場の人々や、一般の生活者はこのふたつをどのように使い分けているのでしょうか。林業従事者への聞き取りや、SNS・質問投稿サイトに寄せられるリアルな声を検証しました。
長野県で林業と森林ガイドに長年携わる現場担当者は、取材に対して次のように現場の実情を語っています。
「現場の作業員同士で話すときは、スギやカラマツが等間隔で並んでいる植林現場を『〇〇の森』と呼ぶことはまずありません。あそこは間違いなく『林(現場)』です。手入れを怠ると荒廃して暗くなってしまう。一方で、標高を上げてブナやミズナラが自生し、倒木の上に新しいコケや幼木が育っているようなエリアに入ると、誰からともなく『ここからは深い森だな』という言葉が出ます。生物の呼吸の深さが肌感覚で違うのです」
一方で、SNSやネット掲示板上では以下のような混乱や疑問の声が頻繁に散見されます。
- 「近所の『〇〇市民の森』に行ったら、植樹されたばかりの細い木ばかりで林にしか見えない」
- 「学校の裏山にある雑木林と、旅行先で見た白神山地の森は何が決定的に違うのか」
- 「不動産情報で『閑静な林間住宅地』とは言うけれど『森の住宅地』と言わないのはなぜ?」
こうした声の背景には、自治体が親しみやすさを込めて公園緑地に「〇〇の森」と名付ける観光・PR的な命名パターンと、本来の生態学的な実態との乖離があります。名前に惑わされず、その空間が「人為的な管理下にあるか」「生態系が自律しているか」を見極める視点が不可欠です。