夏目漱石『こころ』徹底考察|先生とKの死の真相と読後に恐怖する理由

夏目漱石『こころ』徹底考察|先生とKの死の真相と読後に恐怖する理由

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ネット上の掲示板やSNSでは、時折「先生は叔父に財産を騙し取られたトラウマから心を病んでしまった可哀想な人」「Kの自殺に巻き込まれた被害者」という同情論が見受けられます。しかし、これは作品の根本的なテーマを見誤った危険な誤読です。

臨床心理学や家族社会学の視点から分析すると、先生の心理構造は「傷ついた被害者が、まったく同じ手口で他者を踏みにじる加害者に転化する病理」そのものです。

若き日の先生は、信頼していた実の叔父から遺産を横領され、人間不信の塊となりました。そのとき先生が抱いた憤りは「他人の金をごまかすようなずるい奴が許せない」という道義的な潔癖さでした。ところが、下宿でお嬢さんへの独占欲が芽生えた際、先生が取った行動はどうだったでしょうか。

叔父が先生の無知につけ込んで財産を掠め取ったように、先生はKの誠実さと世間知らずにつけ込み、Kに一切相談しないまま背後からお嬢さんを「略奪」しました。先生自身が遺書の中で「叔父に対する憤りをそのままKに向けたようなものだ」と自白している通り、自分が最も忌み嫌っていたはずの「卑劣な詐欺師」に、先生自らが成り果てていたのです。

「自分は傷つけられた被害者なのだから、多少のエゴは許される」という自己正当化の罠。漱石が暴き出したのは、悪人の邪悪さではなく、「善良で教養ある人間が、恋やプライドを前にしたとき、いとも容易く他者を破滅させる怪物に変貌する」という人間の業そのものです。

高橋 健太
著者

高橋 健太

Webメディアでの編集・執筆歴10年。読者の好奇心を刺激するストーリー作りを心がけています。