医学界においてスポーツ心臓(Athlete's Heart)とは、激しい有酸素運動(長距離走やロードバイクなど)や高強度のレジスタンストレーニング(重量挙げなど)を長期間継続した結果、心臓の筋肉(心筋)が厚くなったり、心室・心房の容積が拡大したりする生理的適応を指します。病気ではなく、過酷な運動負荷に対応するために心臓が遂げた「前向きな改造」と表現できます。
日常的に激しい運動を行うと、筋肉は大量の酸素と栄養素を要求します。心臓はその需要に応えるため、ポンプとしての出力(心拍出量)を極限まで高めなければなりません。結果として心臓の筋繊維が発達し、一度に送り出せる血液量(1回拍出量)が劇的に増加します。
ここで多くの人を驚かせるのが、「スポーツ心臓の脈拍と徐脈の理由」です。一般的な成人の安静時心拍数は1分間に60〜100回程度ですが、長距離ランナーなどでは40回以下、時には30回台前半まで落ち込むことがあります。臨床現場ではこれを徐脈と呼びますが、スポーツ心臓における徐脈は極めて合理的です。1回の収縮で送り出せる血液量が一般人の1.5倍から2倍近くに達するため、安静時には少ない拍動回数で全身の循環を賄えます。さらに、過酷なトレーニングによって副交感神経(迷走神経)の緊張が高まり、心臓を休ませようとするブレーキ機能が強力に働くことも、心拍数を押し下げる大きな要因です。
また、「長距離ランナーに多いスポーツ心臓の特徴」として、心臓の内腔(左心室内径)が大きく広がる「遠心性肥大」が挙げられます。血液を大量に溜め込んで効率よく押し出す構造へと変化するため、持久系アスリートの胸部X線検査では、心臓の影が大きく映し出される「心拡大」が典型的に確認されます。