スターター(セルモーター)が勢いよくクランキングしているにもかかわらず、キュルキュル音による始動不良が続く場合、エンジンが自立回転するための物理的・熱力学的サイクルが成立していません。自動車の内燃機関が始動するためには、古くから整備現場で言われる「3大要素」が揃っている必要があります。
すなわち、「良い火花(点火)」「良い混合気(燃料と空気)」「良い圧縮(ピストンとシリンダーの気密性)」の3つです。セルモーターが回っているという事実は、「スターターギアがフライホイールを噛み、クランクシャフトを物理的に回せている」という点のみを証明しています。つまり、クランクが回ってもシリンダー内でガソリンと空気の混合気に適切なタイミングで点火されていないか、そもそも燃焼室に必要なガソリンが届いていないのです。
取材した指定整備工場の工場長は次のように証言します。「多くのドライバーは『セルが回るから電気系は完璧だ』と思い込んでセルを回し続け、最終的に完全にバッテリーを上げたり、セルモーターを焼き付かせたりして修理代を跳ね上げてしまいます。セルは回るのにエンジンがかからない原因の多くは、燃料系か点火系、あるいはセンサー類の一時的なエラーに集約されます」。