緊張性気胸が引き起こす徴候の中で、最も警戒すべきが急激な血圧低下と循環虚脱です。呼吸器系のトラブルでありながら、直接の死因となるのは高度の閉塞性ショックです。現場の医師や救急救命士が直面する、緊張性気胸で血圧低下が起きる理由には、心血管系に対する明確な解剖学的障害が存在します。
胸腔内が極端な陽圧に達すると、全身から心臓へと血液を送り返している「上大静脈」および「下大静脈」が強烈に圧迫され、血管腔が物理的に虚脱します。心臓は血液を送り出すポンプですが、戻ってくる血液(静脈還流)が途絶してしまえば、拍出する血液そのものが存在しません。これにより心拍出量が劇的に激減し、ショック状態へと直行します。
この血行動態の破綻を反映して現れるのが、緊張性気胸の特徴的な症状です。心臓に血液が入れないため、首の血管に血液がうっ滞する「頸静脈怒張」が顕著に現れます。さらに、押し出された縦隔によって気道が健側へ曲げられる「気管偏位」が発生し、胸郭の打診では太鼓のように甲高い音が響く「過共鳴」、聴診では「患側呼吸音の完全消失」が確認されます。脈拍は代償性に跳ね上がり、冷汗、著しいチアノーゼ、不穏状態を経て、介入が数分遅れれば心停止(PEA:無脈性電気活動)に至ります。