日曜劇場『テセウスの船』におけるせいや(霜降り明星)の役柄は、宮城県の孤立した集落・音臼村(おとうすむら)に暮らす車椅子の老人・田中義男の長男、田中正志です。物語の序盤から中盤にかけては、気難しく偏屈な父親の介護に追われながら村の行事に参加する、ごく平凡で大人しい村人Aとして描かれていました。目立つ行動を起こすこともなく、主人公の田村心(竹内涼真)や父の佐野文吾(鈴木亮平)とも平穏に言葉を交わす存在として配置されていたのです。
しかし、物語が終盤に進むにつれて張り巡らされていた伏線が一本の線へと繋がります。1989年に発生した音臼小学校の青酸カリ無差別毒殺事件において、実行犯として動いていた小学生・加藤みきお(柴崎楓雅)の背後で、すべての糸を引いていた共犯であり黒幕こそが田中正志でした。みきおの歪んだ承認欲求と好意を利用し、村を破滅へと導く毒殺計画を巧妙に後押ししていた事実が明らかになります。
田中正志を凶行へと駆り立てた決定的な動機は、12年前に村で開催された「音臼村キノコ汁祭り」で発生した青酸カリ中毒事故でした。正志の実母である田中すず(キク)は、祭りのキノコ汁を飲んで命を落とします。しかし、当時事件を担当した警察官・佐野文吾は、正志の妹が誤って農薬(青酸カリ)を鍋に混入させた過失事故であると判断し、妹の将来を庇う配慮から事件を「誤食による事故」として処理しました。この文吾の温情措置を、正志は「警察の怠慢によるもみ消し」「母の死を軽視した村人たちの欺瞞」と激しく憎悪。心の中にどす黒いルサンチマン(怨恨)を募らせ、佐野家と村全体を地獄に突き落とす完全犯罪を企てたのです。