かつてフジテレビ系列などで大々的に全国ネット生中継されていた井上尚弥選手の試合ですが、地上波テレビ放送予定(全国ネット無料生中継)は組まれない構造が定着しています。テレビ番組表を探しても見当たらないのは放送事故や直前変更ではなく、グローバルなスポーツビジネスの劇的な変化に起因しています。
最大の要因は、世界戦におけるファイトマネーと興行規模の天文学的な高騰です。井上選手のファイトマネーは1試合あたり数億円から十数億円規模に達しており、これにアンダーカードの出場給や会場設営費を加えると、1興行で十数億円以上の制作・運営資金が必要となります。従来の地上波テレビ局が依存する民間広告スポンサー料モデルでは、この巨額の放映権料をペイすることが極めて困難になりました。
その結果、有料会員基盤の拡大やペイ・パー・ビュー(PPV)収益を見込める巨大資本のOTT(動画配信サービス)が放映権を獲得する構造が確立されました。メディア社会学の観点からも、国民的スポーツイベントが「全世帯向け無料放送」から「熱心なファン層が課金して楽しむプラットフォーム型配信」へ移行した象徴的な事例と言えます。