「魚偏に春だから、旬は当然春だろう」と考えるのが自然ですが、実は日本の東西で「鰆の旬」に対する価値観は真っ二つに分かれます。市場関係者や目利きの仲買人が口を揃えるのは、「春の鰆と冬の鰆はまったく別の魚として味わうべき」という点です。
関西地方(特に岡山県や香川県、京都府など)では、伝統的に産卵前後の3月〜5月にかけての「春鰆」が珍重されます。この時期の鰆は身が柔らかく、淡白であっさりとした上品な味わいが特徴です。さらに、春の鰆は魚体だけでなく、発達した「真子(卵巣)」や「白子(精巣)」も絶品とされ、煮付けやカラスミ風の珍味として郷土料理の主役を務めます。
これに対し、関東地方や日本海側で圧倒的な支持を集めるのが、12月〜2月の厳冬期に水揚げされる「寒鰆(かんざわら)」です。産卵に向けて越冬するこの時期の鰆は、冷たい海水に耐えるために全身に極上の脂を蓄えます。身全体にきめ細かなサシが入り、マグロの中トロに匹敵する濃厚な甘みととろける食感を生み出します。
水産庁や卸売市場の成分分析データによると、春の鰆の脂質含有量が約5〜7%程度であるのに対し、厳冬期の寒鰆は脂質含有量が約15%前後にまで跳ね上がることが実証されています。あっさりした春の上品さを楽しむか、冬の濃密な脂の甘みを堪能するかによって、選ぶべき季節が明確に異なります。