本作の緻密なドラマ性を支えていたのが、坂道を挟んで向かい合う「遠藤家」と「高橋家」、そしてふたつの家庭を取り囲む高級住宅街「ひばりヶ丘」の住人たちによる複雑な心理相関図です。
舞台となる「ひばりヶ丘」は、誰もが憧れるステータスシンボルでありながら、独自の厳格なローカルルールが支配する閉鎖的なコミュニティでした。この街の頂点に君臨していたのが、自治会婦人部のボス・小島さと子(夏木マリ)です。緑のゴミネットの使い方ひとつで住人を締め上げ、他人の不幸を監視する異様な執念を、夏木マリが怪演。その夫・泰雄を演じた小日向文世のどこか無関心で諦めきった佇まいが、夫婦間の断絶をリアルに際立たせていました。
この息苦しい街に、坂の下の庶民的な街から無理をしてマイホームを購入し引っ越してきたのが「遠藤家」です。母親の真弓(鈴木京香)は周囲の見栄の張り合いに気圧され、父親の啓介(宮迫博之)は事なかれ主義で家庭の危機から目を背け、娘の彩花(杉咲花)は受験失敗から家庭内暴力へ走るという、外見ばかりを取り繕った家庭の脆さが描かれました。
その真向かいに佇んでいたのが、誰もが羨む理想の「高橋家」です。病院を開業する優秀な医師の父・弘幸(田中哲司)、美しく上品な母・淳子(石田ゆり子)、医大生の長男・良幸(安田章大)、名門私立に通う長女・比奈子(宮﨑香蓮)、そして秀才で心優しい次男・慎司(中川大志)。非の打ち所がないセレブ一家に見えましたが、その内実は父親による苛烈な教育虐待とモラルハラスメント、母の狂気的な防衛本能が渦巻く、今にも爆発しそうな火種を抱えた家庭でした。
そして、事件を追う刑事・結城哲也を演じた高橋克典の冷徹ながらも人間味のある捜査の視点が加わることで、ふたつの家族の剥き出しの素顔が徐々に白日のもとに晒されていく構造が見事に完成していました。