王道家の歴史を語る上で避けて通れないのが、2011年に起きた吉村家からの破門・直系離脱劇です。かつて師弟として固い絆で結ばれていた吉村実氏と清水裕正氏の間に、一体何があったのか。その決定的な引き金となったのは、ラーメンの命とも言える「自家製麺」の導入でした。
吉村家直系店舗には、厳格な掟が存在します。その最たるものが、吉村実氏と二人三脚で家系ラーメンの歴史を築き上げてきた老舗製麺所「酒井製麺」の特製麺を使用することでした。酒井製麺の麺を使うことこそが直系の証であり、ブランドのアイデンティティそのものだったのです。
しかし、スープの濃度を極限まで高めていた清水氏は、「この超濃厚な豚骨醤油スープに真に拮抗し、小麦の香りをダイレクトに届けるには、自らの手で配合を微調整できる自家製麺でなければならない」という職人としての限界点に直面します。清水氏は当時の取材や動画インタビューの中で、次のように胸中を語っています。
「吉村の親父への恩義や尊敬は一生消えない。だが、職人としてお客様により旨い一杯を出したいという想いを妥協することはどうしてもできなかった」
自社工場を立ち上げ自家製麺へと舵を切った清水氏に対し、総本山の下した決断は非情な「破門処分」でした。ブランド看板の剥奪、直系リストからの除外。業界内では「吉村家に逆らって生き残れる店はない」と囁かれましたが、清水氏は「王道家」の屋号を掲げ続け、味の力だけで看板の喪失を跳ね返してみせたのです。