月の海の名前一覧と地図完全図解!水がないのに海と呼ばれる理由

月の海の名前一覧と地図完全図解!水がないのに海と呼ばれる理由

月の海の名前一覧と地図完全図解!水がないのに海と呼ばれる理由にまつわる役立つ知識を分かりやすく発信ます。

日本をはじめとする東アジアでは、満月の黒い模様を「臼と杵で餅をつくうさぎ」と捉えてきました。この伝統的なうさぎの姿は、主要な月の海の配置関係を完璧に捉えるための最も優れた天然の地図になります。

具体的にどの海がうさぎのどの部位に対応しているのかを整理すると、以下のようになります。

  • うさぎの頭部・耳:月の北東部(右上)にある「豊かの海」と「静かの海」、そしてその北に位置する「晴れの海」が、ピンと伸びた耳と後頭部を形作っています。
  • うさぎの胴体:北西部から中央部(左上)に広がる巨大な「雨の海」が、丸まった背中と胴体全体に該当します。
  • うさぎの足・腰:南西方向(左下)へと広がる「雲の海」や「湿りの海」が、地面を踏みしめる後ろ足を形成しています。
  • 臼(うす):うさぎが向かい合っている臼の輪郭は、東側(右側)の独立した「危難の海」や、南東部の複雑な暗色地帯がその影を落としています。

この中で、初心者にとって最も見つけやすく位置同定の基準点になるのが「危難の海(Mare Crisium)」です。危難の海は他の海域と接続しておらず、月面の東端付近にぽつんと完全に独立した綺麗な楕円形(実際には東西555km、南北490kmの真円に近い形状ですが、月面の縁にあるため視線角度で横長・縦長の楕円に歪んで見えます)を描いています。月齢3前後の細い三日月の段階から太陽光が当たり始めるため、月の満ち欠けのサイクルにおいて真っ先に肉眼や双眼鏡で確認できる頼もしいランドマークです。

一方、月面中央から北にかけて君臨する「雨の海(Mare Imbrium)」は、満月時に最も強烈な存在感を放ちます。直径1,100kmを超えるこの巨大盆地は、周囲をアペニン山脈、コーカサス山脈、アルプス山脈といった標高数千メートルの急峻な山脈群がぐるりと取り囲んでおり、太陽光が斜めから差し込む上弦や下弦の月では、山脈の影が海面へ長く伸びる息をのむような立体美を観察できます。

「晴れの海」と「澄みの海」の違いを巡る歴史的混乱

天文ファンや読書家の間でしばしば話題にのぼるのが、「晴れの海」と「澄みの海」の違いです。インターネット上の一部情報では、まるで別の海が存在するかのように語られるケースが見受けられますが、これは歴史的な和訳の揺らぎに起因する同一の海、あるいは誤認です。

ラテン語の「Mare Serenitatis」の「Serenitas」は、澄み渡った天候、穏やかさ、静寂、晴朗を意味する言葉です。明治から大正、昭和初期にかけて西洋天文学の学術用語が日本語へ翻訳された際、ある学会誌や訳書では「晴れの海」と訳され、別の専門書では「澄みの海」と意訳されました。現代の日本天文学会や国立天文台が定める標準的な学術用語としては「晴れの海」に統一されています。

また、晴れの海のすぐ南西に隣接する「Mare Vaporum(蒸気の海)」や、南東の「Mare Tranquillitatis(静かの海)」の訳語が重なり合って記憶され、民間伝承的に「澄みの海という別の海がある」と誤認された経緯もあります。天体図上で探す場合は、「晴れの海(Mare Serenitatis)」を探せば間違いありません。

木村 陽翔
著者

木村 陽翔

デジタルガジェットとスマート家電の検証記事を多数執筆。失敗しないモノ選びを提案します。