なぜ一時期、三木谷氏の個人資産は「半減した」と大々的に騒がれたのでしょうか。その構造的トリガーとなったのが、2020年以降に本格化した楽天モバイル赤字の資産影響です。
楽天グループは第4の携帯キャリアとして名乗りを上げ、完全仮想化ネットワークという世界初の技術に賭けました。しかし、プラチナバンド獲得前の基地局急拡大に伴う設備投資費とパートナー回線(auローミング)の利用料負担が重なり、モバイル事業単体で累計1兆円を超える巨額の先行損失を計上。これがグループ全体の連結最終赤字を深刻化させました。
決算の悪化は、当然ながら株式市場での激震に直結します。2021年春に1株1,500円を超えていた楽天グループの株価は、社債の償還懸念や財務悪化が警戒された2023年には一時500円近辺まで沈み込みました。三木谷氏個人にとって、保有資産の約9割を自社株が占めていたため、株価の3分の1への下落はダイレクトに数十億ドル(数千億円)規模の個人含み資産喪失を意味していたのです。
当時、決算説明会の場で三木谷氏は厳しい表情を崩さず、「モバイルへの投資は民主化のためであり、中長期的には必ず楽天エコシステムの最強のエンジンになる」と幾度となく宣言していました。現場の記者陣が目撃したその眼差しには、自身の巨額資産の目減りを恐れるよりも、構想を完遂させようとする勝負師特有の執念が滲んでいました。