日本の音楽市場が史上空前の熱狂に包まれていた2001年3月28日、東芝EMI(現・ユニバーサルミュージック)から宇多田ヒカルの2ndアルバム『Distance』が、エイベックスから浜崎あゆみ初のベストアルバム『A BEST』が同日リリースされました。CDショップには前夜から長蛇の列ができ、テレビのニュース番組や一般紙の一面でも大々的に報じられる異例の事態へと発展しました。
この「直接対決」が成立した背景には、レコード会社間の熾烈な販売戦略が存在します。先に発売日を告知していた東芝EMIに対し、エイベックス側が対抗措置として『A BEST』のリリース日を同一日にぶつけたのが発端です。エイベックスにとって上場企業としての年度末決算を控えた重要なタイミングであり、全社を挙げた大規模なマーケティング攻勢が仕掛けられました。
しかし、この華々しいプロモーションの裏で、当事者であるアーティスト自身は激しい葛藤に直面していました。浜崎あゆみは後にドキュメンタリー番組や手記において、オリジナルアルバムをわずか3枚しか出していない段階でのベストアルバム発売に強い抵抗があったことを明かしています。涙を流すインパクトあるジャケット写真は、自身の意に反して進行する過密スケジュールと巨大な商業主義への苦悩が滲み出た瞬間でもありました。一方の宇多田ヒカルもまた、自身が意図しない形でメディアに「勝負」と煽られる状況に対し、冷静かつ複雑な思いを抱きながら制作に専念していたことが当時の取材で語られています。