人間心理の深層を解き明かす認知心理学の観点からも、この言葉の恐るべき正しさが裏付けられています。人間には、成功したときは「自分の実力や努力のおかげ」と思い込み、失敗したときは「天気が悪かった」「運がなかった」「部下の動きが悪かった」と外的な要因に責任転嫁する自己奉仕バイアス(Self-serving bias)が標準装備されているからです。
さらに厄介なのが、ビジネスの現場に蔓延する「結果バイアス(Outcome bias)」です。杜撰な戦略や根拠のない見切り発車であっても、市場環境の急変や競合の脱落によって「たまたま大ヒット」してしまうケースがあります。このとき組織は「自分たちのやり方は正しかった」と錯覚し、プロセスの致命的な欠陥を見逃します。
野村監督が生前、テレビ特番のインタビューや自著で繰り返し語っていたのが「勝った試合のあとにこそ、ミーティングを徹底して長く行う」という指導方針でした。「不思議の勝ち」を収めた直後、浮かれるナインを集めて「今日の勝ちは相手のエラーのおかげだ。お前たちのバント失敗や牽制死は、次は必ず命取りになる」と釘を刺す。偶然の成功を実力と誤認した瞬間に、組織の崩壊が始まると知悉していたからです。