歴代ヒロインの中で圧倒的な存在感を誇り、寅さんマドンナ最多出演女優の称号を持つのが、旅回りの歌手・松岡リリー役を演じた浅丘ルリ子です。浅丘は以下の全6作品に出演し、寅さんの人生において唯一無二の「魂の伴侶」として描かれました。
- 第11作『男はつらいよ 寅次郎忘れな草』(1973年)
- 第15作『男はつらいよ 寅次郎相合い傘』(1975年)
- 第25作『男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花』(1980年)
- 第48作『男はつらいよ 寅次郎紅の花』(1995年・渥美清の遺作)
- 第49作『男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花 特別篇』(1997年)
- 第50作『男はつらいよ お帰り 寅さん』(2019年)
浅丘ルリ子リリー役の魅力は、寅次郎と対等に渡り合い、時に激しく罵り合いながらも誰よりも深い孤独を共有できた点にあります。当時の撮影現場を知る関係者の証言によると、山田洋次監督は「寅さんとリリーはコインの裏表のような存在」と位置づけており、単なる淡い恋情を超えた戦友としての絆が脚本の根底に流れていました。
一方で、同一キャラクターではなく「全く異なる別の役」として何度もマドンナを務めた女優が存在することも、本シリーズの非常に興味深い特徴です。その筆頭が竹下景子です。竹下景子歴代マドンナの足跡を辿ると、第32作『口笛を吹く寅次郎』(寺の娘・朋子役)、第38作『知床慕情』(知床の宿の娘・りん子役)、第41作『寅次郎心の旅路』(ウィーンツアーの添乗員・久美子役)と、実に3作品で異なる境遇のヒロインを巧みに演じ分けました。「お嫁さんにしたい女優ナンバーワン」と呼ばれた竹下の知性と温もりは、円熟期に入ったシリーズの安定感を象徴していました。
さらに、日本映画界の至宝である吉永小百合出演作品も見逃せません。吉永は第9作『柴又慕情』(1972年)と第13作『寅次郎恋やつれ』(1974年)において、同じ「高見歌子」役として2作品に出演しました。第9作で旅先で出会った無邪気な令嬢・歌子が、第13作では父親との確執や夫との死別という人生の辛酸を舐めた未亡人として再登場し、寅次郎がその悲しみを優しく包み込もうとする展開は、ファンの間でも語り草となる屈指の名篇です。
このほかにも、大原麗子(第22作、第34作)、松坂慶子(第27作、第46作)、栗原小巻(第4作、第36作)といった大スターたちが寅さんマドンナ複数回出演を果たしており、同じ女優の年齢や演技の変化がそのまま作品の奥行きとなって刻まれています。