日本語には「医者の不養生」と同じ構造を持つ、職種別のユニークな類語が数多く存在します。どれも「専門職でありながら自分のこととなると手が回らない」情景を見事に描写しています。
代表的な類語として挙げられるのが「紺屋の白袴(こうやのしろばかま)」です。藍染めを生業とする染物屋が、仕事に追われて自分の袴を染める暇がなく、いつも白いまま履いている様子を指します。また、信徒に仏の教えを説く僧侶が自らは信心深くないことを意味する「坊主の不信心」や、他人の髪を美しく結い上げる髪結い職人が自分の髪は乱れたままにしている「髪結いの髪乱れ」、人の運勢を占う者が自分の将来は見通せない「易者の身の上知らず」など、職人文化に根ざした表現が豊富です。
一方、対義語としては、専門知識を活かして自ら健康を維持することを指す「医者の養生」や、手本として自ら先頭に立って実行する「率先垂範(そっせんすいはん)」、言葉と行動を一致させる「有言実行」などが該当します。
なお、英語圏にも類似の表現が存在します。聖書(ルカによる福音書)に由来する格言“Physician, heal thyself.”(医者よ、自分自身を治せ)や、靴屋の子どもは靴を履いていないという“The shoemaker's children go barefoot.”などが、ほぼ同じニュアンスで日常的に用いられています。