動物咬傷の中でも、特に猫による噛み傷は感染リスクが非常に高いことで知られています。その最大の要因は、猫特有の「歯の構造」と「口腔内常在菌」にあります。
犬の歯が獲物を捕らえて引き裂く形状であるのに対し、猫の牙は細く尖った注射針のような形状をしています。この鋭い牙が皮膚を貫くと、表面の傷口はごくわずかでありながら、皮下組織、腱、関節包といった深部にまで一気に細菌を注入してしまいます。さらに、皮膚表面の小さな穴は短時間で自然に塞がりやすいため、酸素を嫌う細菌にとって絶好の繁殖環境(嫌気性環境)が皮下に作り出されてしまうのです。
なかでも最も警戒すべき病原体がパスツレラ菌(Pasteurella multocida)です。健康な猫の口腔内にはほぼ100%常在している細菌で、猫咬傷による感染症の過半数を占めます。パスツレラ菌の特徴は増殖スピードが異常に速い点にあり、噛まれてからわずか30分〜数時間で発症し、急速な発赤と激烈な自覚痛をもたらします。免疫力が低下している高齢者や糖尿病などの基礎疾患を持つ方では、短時間で重篤な骨髄炎や敗血症へと移行するリスクが高まります。