鶏もも肉の美味しさを決定づけるのは、肉の内部に含まれる「水分量」と「脂質の保持率」です。加熱調理において肉のタンパク質(主にミオシンとアクチン)は60℃付近から凝縮を始め、68℃を超えると急激に縮んで内部の水分を外へ押し出してしまいます。強火で一気に火を通そうとすると、表面だけが過加熱になってパサつき、中心部は生焼けという典型的な失敗に陥ります。
ジューシーさを限界まで引き出すための基本は、肉の厚みを均一にしてから冷たいフライパンに皮目を下にして並べる「コールドスタート」です。弱中火でじっくり熱を伝えると、皮下の余分な脂が溶け出し、その脂で自らの皮を揚げるように焼き上げることができます。結果として、皮は驚くほどパリパリになり、身は65℃前後の絶妙な温度帯を保ったままふっくらと火が通ります。
さらに重要なのが、調理前の鶏もも肉を柔らかくする下処理です。フォークで皮と身の両面を数カ所刺して繊維を断ち切り、肉の総重量に対して約0.8〜1.0%の塩(または砂糖と塩を揉み込むブライン液)をなじませることで、筋原線維タンパク質が溶解して保水性が高まり、加熱しても肉汁が流出するのを防ぎます。