日々の食卓には、トマトの赤、カボチャの黄色、ホウレンソウの緑など多彩な色彩が並びますが、主食や主菜で自然な水色や青色を持つ食材は極めて稀です。この現象には、植物生理学と進化生物学の双方から明確な科学的理由が存在します。
植物が太陽光を利用してエネルギーを生成する光合成において、葉緑素(クロロフィル)はエネルギー効率の高い「青色光」と「赤色光」を吸収し、利用しにくい「緑色光」を反射します。そのため、植物の多くは緑色に見えます。また、果実が赤や黄色に色づくのは、鳥や哺乳類などの動物に対して「熟して栄養が豊富である」ことを知らせ、種子を遠くへ運んでもらうための視覚的シグナルです。対して、自然界において青や紫を帯びた変色は、ポリフェノールの一種であるアントシアニンが高濃度に蓄積した場合や、カビ・腐敗、あるいはアルカロイド系の有毒植物である警告色として機能してきました。人類の祖先もまた、青い動植物を「口にしてはならない危険なサイン」として本能的に忌避する心理プログラムを獲得してきたのです。
ところが2020年代半ば以降、SNSのタイムラインや動画プラットフォームにおけるビジュアルコミュニケーションの浸透、さらにはアニメ・ゲーム文化やアイドルカルチャーにおける「推し色(メンバーカラー)」の消費行動が定着したことで、食に対する色彩感覚は劇的なパラダイムシフトを迎えました。「食欲をそそるか」という従来の機能的価値に加え、「世界観を表現できているか」「写真や動画で美しく映えるか」という情緒的・表現的価値が重視されるようになった結果、安心・安全に使える水色の食材や着色素材への需要がかつてない規模で拡大しています。