かつては「曲がりが大きくて球速が遅いスライダーは長打になりやすい」というのが野球界の定説でした。それにもかかわらず、なぜ2020年代以降のMLBでスイーパーが大流行したのでしょうか。その背景には、最新の弾道測定器「トラックマン」や「ホークアイ」によるピッチデザイン(投球設計)の飛躍的な進化があります。
近年、野球物理学で解明されたのが「シーム・シフテッド・ウェイク(SSW:Seam-Shifted Wake)」と呼ばれる現象です。ボールの縫い目(シーム)の傾きによってボールの周囲を流れる空気層が非対称になり、マグヌス効果(回転による揚力)とは異なる方向へボールが強く押し出される力学的作用を指します。
スイーパーの投げ方・握り方は、人差し指と中指をボールの縫い目に沿わせるように深く置き、リリース時にチョップするように切るのではなく、手のひらを一塁側(右投手の場合)に向けながら指先でボールの横面を押し出す感覚で投じられます。これにより、高い回転数を維持したまま横方向への空気抵抗を最大化させることが可能になりました。
ロサンゼルス・ドジャースやタンパベイ・レイズといったデータ先進球団は、このメカニズムをいち早く投手にインストールしました。「腕の振りの角度(スロット)がスリークォーター気味の投手であれば、短期間の練習で即座に曲がり幅を拡張できる」という再現性の高さが証明されたことで、全米の球団がこぞってスイーパーの習得を推奨するムーブメントが巻き起こったのです。