古屋兎丸の作品を語る上で避けて通れないのが、漫画界随一とも評される超絶的な描写技術です。この卓越した表現力の背景には、多摩美術大学美術学部絵画科(油画専攻)で培われた本格的なファインアートの素養が存在します。
大学卒業後、高校の美術講師や美術予備校で教鞭を執りながら執筆を続けていた経歴を持ちます。当時のインタビューや自著の手記において本人が振り返っている通り、石膏デッサンや油彩技法、西洋美術史に対する深い造詣が、作家の骨格を形成しました。
商業誌デビューは1994年の『月刊漫画ガロ』に掲載された4コマ連作短編『Palepoli(パレポリ)』。点描、木版画風、劇画、少女漫画タッチ、果ては古典絵画のパロディまで、1ページごとに作風を自在に変貌させる驚異的な技巧は、当時の漫画界に強烈な衝撃を与えました。単なる絵の巧拙を超え、「漫画の文法そのものを解体・再構築する知性」が、初期から明確に提示されていたのです。