二酸化マンガン($\text{MnO}_2$)を入れた容器に過酸化水素水($\text{H}_2\text{O}_2$水溶液)を滴下した途端、激しい発泡が始まります。この泡の正体は、過酸化水素が水と酸素に急速分解されて放出される「純度の高い酸素ガス」です。
この現象を記述する酸素発生の化学反応式は以下の通り表されます。
$2\text{H}_2\text{O}_2 \xrightarrow{\text{MnO}_2} 2\text{H}_2\text{O} + \text{O}_2 \uparrow$
過酸化水素という分子は、水分子($\text{H}_2\text{O}$)に酸素原子が無理やりもう1つくっついたような不安定な構造をしています。そのため、室温で放置していても極めてゆっくりと水と酸素へと自然分解していますが、そのスピードは人間の目にはほとんど見えません。分子同士が衝突して分解に至るためには、一定の高いエネルギーの壁(活性化エネルギー)を越える必要があるからです。
ここで二酸化マンガンが触媒となる理由が明確になります。二酸化マンガン表面のマンガン原子は、過酸化水素分子を吸着して一時的な中間複合体を形成します。この迂回路を通ることで、反応に必要な活性化エネルギーが劇的に引き下げられます。その結果、室温環境でも爆発的な速度で結合の組み替えが進み、目に見える激しい発泡となって現れるのです。
さらに多くの学習者が抱く疑問が、反応後も二酸化マンガンが減らない理由です。化学反応の前後で二酸化マンガンの質量を精密天秤で計測すると、完全に乾燥させた場合、反応前とまったく同じ数値を示します。二酸化マンガンは反応の途中で過酸化水素と結合を交わしますが、酸素と水を放出した直後に元の酸化マンガン(IV)へと再生されます。自身が酸化されたり還元されたりするサイクルを瞬時に完結させて元通りに戻るため、試薬のように消費されることがありません。