かに太郎の店内に足を踏み入れると、壁に掲げられた色褪せたメニュー札が目に入ります。「ラーメン」「カツ丼」「定食」といった昭和のドライブインらしい品名が並んでいますが、これらはすべて過去の名残です。現在の提供メニューは「かにめし(500円)」の一択となっています。席に座ると店主から「かにめしでいいかい?」と穏やかに声をかけられ、注文が成立します。
提供される「かにめし」は、朱色の円形プラスチック重箱に美しく盛り付けられています。甘辛く炊き上げられた筍と椎茸のそぼろの上に、丁寧にほぐされたカニの身、黄金色の錦糸卵、紅生姜、そしてグリーンピースが添えられ、温かいお吸い物とたくあんがセットで運ばれます。
昨今のカニ相場の急騰や米・調味料の価格改定を鑑みれば、500円という価格設定は完全に原価割れを起こしかねない水準です。テレビ番組の密着取材や来店客との会話のなかで、店主は「儲けを出すためではなく、わざわざ立ち寄ってくれるお客さんの喜ぶ顔が見たいから」と淡々と語っています。利益追求を離れ、生活のリズムと客とのささやかな触れ合いを守るために維持されている価格であることが伺えます。