ブランドのバックボーンを語る上で欠かせないのが、プロダクトの全設計を掌理するスリーキングダムスオーバーオールズの中井健二氏の存在です。ヴィンテージデニムの縫製構造やファブリックの組成を骨の髄まで探求してきた同氏の情熱は、愛好家の間ではもはや「執念」や「狂気」の領域として讃えられています。
その極致が、ブランドの看板として不動の人気を誇るTHREE KINGDOMS OVERALLSの大戦モデルです。物資統制が敷かれた1940年代半ばのアメリカにおいて、限られた資材と人員で作られたイレギュラーなジーンズ。中井氏はその背景を単なるディテール(月桂樹ボタンやオリーブドラブのヘリンボーンスレーキ)の再現で終わらせず、当時の縫製ピッチの揺らぎや、下糸の食い込み深さ、運針の切り返し角のゆがみといった「人間の手が生み出す偶発性」まで自らの手技に落とし込みました。
現在市販される大量生産ラインのジーンズでは、コンピューター制御されたハイテクミシンが寸分違わぬステッチを描きます。対して同ブランドの工房では、ユニオンスペシャルをはじめとする半世紀以上前のヴィンテージミシンを自らメンテナンスし、オペレーターの筋力と感覚のみを頼りに縫い進められます。この「縫製の揺らぎ」が着用を重ねるごとにパッカリングとなって立ち上がり、他の追随を許さない陰影を生み出す原動力となっています。