日本の食文化において、なぜお彼岸の時期におはぎが供され、食べ継がれてきたのかには明確な民俗学的背景があります。古来より小豆の鮮やかな「赤色」には邪気を払い魔を遠ざける力があると信じられてきました。また、当時は極めて貴重だった砂糖と米を組み合わせた甘味をご先祖様に供えることで、感謝と供養の誠を捧げる意味合いが込められています。
日常会話で混同されやすいぼたもちとおはぎの違いは、基本的に同じ和菓子を指しながらも「季節の移ろい」と「小豆の収穫時期」に由来する風情ある呼び分けに基づいています。
・春の彼岸=「ぼたもち(牡丹餅)」:春に咲く牡丹の花に見立てて大ぶりに丸め、冬を越して皮が固くなった小豆を裏ごしして「こしあん」で仕立てるのが本来の習わし。
・秋の彼岸=「おはぎ(御萩)」:秋に咲く萩の花の咲きこぼれる姿に見立てて小ぶりに整え、秋に収穫されたばかりの皮の柔らかい新小豆をそのまま活かした「粒あん」で仕立てる。
さらに、米をすりつぶす際に使われるおはぎ半殺し由来には、かつての農村地帯のユーモアと生活の知恵が宿っています。米の粒を半分だけ潰す作業を「半分殺す=半殺し」、完全にお餅状に潰すことを「皆殺し(全殺し)」と呼ぶ隠語が各地の郷土に残り、現在でも和菓子職人の現場用語として受け継がれています。