1964年から1965年にかけて『少年』に連載された手塚治虫の『鉄腕アトム 地上最大のロボット』は、読者アンケートで圧倒的1位を獲得した少年漫画屈指の名作です。浦沢直樹は、この少年向けバトル漫画のプロットを土台にしつつ、全く異なるトーンの大人向けサイバーサスペンスへと脱構築しました。
物語の人間関係を整理すると、その構図の緻密さが浮き彫りになります。『PLUTO』のキャラクター相関図の中心に位置するのは、スイス連邦警察の刑事ロボットゲジヒトです。彼が追う連続殺人事件の被害者は、いずれも「第39次中央アジア紛争」に関与した世界最高水準のロボットたち(モンブラン、ノース2号、ブランド、ヘラクレス、エプシロン、そしてアトム)と、ロボット法擁護派の人間たちでした。
彼らを狙う巨大な角を持つ謎のロボット「プルートゥ」の背後には、祖国の緑化を夢見ながら戦争で家族を失ったペルシアの青年・サハドの悲痛な魂が宿っています。そしてサハドを操るアブラー、アトムの生みの親であり狂気と理性を併せ持つ天馬博士、ロボットの人権を守ろうとするお茶の水博士、さらには国家を裏から牛耳る大統領とAIルーズベルトが幾重にも交錯し、単なる善悪二元論を完全に解体しています。