本作の脚本を手がけたチェ・ワンギュと演出のイ・ビョンフン監督は、徹底した歴史考証をベースにしながら、記録の空白部分に息を呑むフィクションを織り交ぜる職人芸を発揮しました。どこまでが真実で、どこからが創作なのかを把握することで、ドラマの面白さは何倍にも膨らみます。
まず、物語の黒幕として立ちはだかる文定大妃、ユン・ウォニョン(尹元衡)、チョン・ナンジョン(鄭蘭貞)の3名は、朝鮮王朝史に実名で刻まれた実在の怪物たちです。特にチョン・ナンジョンは、賤民である妓生の身分から正一品「貞敬夫人」にまで上り詰めた野心家であり、張禧嬪(チャン・ヒビン)、張緑水(チャン・ノクス)と並ぶ「朝鮮三大悪女」の一人として知られています。彼女たちが専横を極め、多くの政敵を毒殺や謀略で葬り去ったのは史実通りの事実です。
また、劇中でオクニョの知恵袋や師匠として登場する人物たちにも実在のモデルが存在します。典獄署に収監されていた奇人イ・ジハム(李之菡)は、朝鮮随一の予言書『土亭秘訣』を著した著名な儒学者であり実在の人物です。さらに、幻術や変装で悪徳商人から財を巻き上げる道士チョン・ウチ(田禹治)や、実在の大盗賊・義賊であるイム・コクチョン(林巨正)、当代随一の名妓ファン・ジニ(黄真伊)の名前やモチーフが巧みに組み込まれています。
一方で、ヒロインのオクニョ自身や、彼女のパートナーとなるユン・テウォン、師父のパク・テス、そしてソン・ジホンは完全な創作キャラクターです。歴史の影に埋もれた監獄の少女という「無名の存在」が、国家の中枢にはびこる巨悪を法と正義によって裁いていく構図こそ、イ・ビョンフン監督が長年描き続けてきた「民衆のエンパワーメント」の真骨頂と言えます。