トレーニング愛好者のコミュニティや現場指導の現場において、「大胸筋上部を狙っているのに、翌日激しい筋肉痛になるのは肩の前側だけ」という相談が後を絶ちません。この現象が生じる最大の理由は、インクラインベンチプレス 効かない理由の根底にある「代償動作」と「関節角度の不整合」にあります。
解剖学的に見て、大胸筋上部(鎖骨部)は鎖骨の内側半分から上腕骨にかけて走行しており、腕を斜め上前方へ押し出す「肩関節の屈曲と水平内転」の複合運動で強く収縮します。ところが、シートの角度や腕の軌道がわずかでも狂うと、隣接する三角筋前部へと主たる負荷が逃げてしまいます。
フィットネスクラブの現場で15年以上の指導歴を持つベテランパーソナルトレーナーは、次のように警鐘を鳴らします。
「インクラインのベンチに座った瞬間、無意識にフラットベンチと同じ感覚で腰を極端に反らせ、強固なブリッジを組んでしまう方が非常に多いです。胸椎を伸展させて胸を張る意識は大切ですが、腰から大きく浮かせたアーチを作ると、床面に対して上体の傾斜が失われ、実質的な作用線がフラットベンチプレスと全く同じになってしまいます。結果として大胸筋上部の刺激が抜け、無理に重さを支えようとして肩関節の前方組織にすべての負担が集中するのです」
見栄や自己満足のために高重量を扱おうとする「エゴリフティング」が、結果的に大胸筋上部へのメカニカルテンションをゼロにしてしまう典型的な構造的欠陥がここにあります。