神戸を代表するストリートでありながら、その名前の響きには独特のエキゾチシズムが宿っています。なぜこの通りは「トアロード」と呼ばれるようになったのか。その背景には、明治後期の神戸が経験した国際観光都市への歩みが深く関わっています。
トアロードの名前の由来として定説となっているのは、1908(明治41)年に現在の神戸外国人家屋(北野エリアの手前)付近に開業した高級西洋式ホテル「トアホテル(Tor Hotel)」です。当時、外国人居留地に滞在していた欧米の要人や豪商たちが、山手のトアホテルや北野の私邸へと馬車を行き交わせるために整備された専用のメインストリートが、いつしか「トアロード」と呼ばれるようになりました。
なお、「トア(Tor)」という単語自体については、ドイツ語で「門(Tor)」を意味するという説や、英国・ケルト語で「岩山・丘」を意味する「Tor」から名付けられたという説など、複数の解釈が存在します。居留地で暮らした外国人居留民にとって、港から山を仰ぎ見るこの坂道は、まさに異国の風が吹き抜ける「特別なゲート」であったことは間違いありません。
都市社会学的な見地から分析すると、トアロードの魅力は「通過点としての道路」ではなく、「歩行者自身が街の風景の一部となるヒューマンスケールな空間構造」にあります。道幅は約12メートル前後と広すぎず、左右に立ち並ぶ低層〜中層のブティックや洋館風建築が適度な親密感を生み出しています。この空間構造こそが、1世紀以上を経た2026年現在も、歩く人々に特別な高揚感を与え続ける根本的な要因です。